お知らせ News

福岡大学病院 無痛分娩について

 当院はハイリスクの妊婦さんと赤ちゃんを受け入れる地域の高度医療機関としての役割を担っておりますが,

希望があれば特に出産に対してリスクが少ない妊婦さんの無痛分娩も行っております。

 

 

当院での無痛分娩を希望される場合

 

 まず,無痛分娩希望がある方は産科外来で希望をお伝え下さい。無痛分娩教室の受講(30分程度)と採血が必要となります。

 無痛分娩の受講後に産科外来で38週前後での計画分娩が予定されます。

 

 

計画分娩について

 

 日程を決めずに,自然陣痛が来てから無痛分娩を行う方法と,予め日程を決めて子宮収縮薬などを使用し陣痛を誘発し無痛分娩を行う方法があります。当院では後者の計画無痛分娩を行っています。

 

 誘発分娩の方法は,サービカルバルーン(子宮の入り口に水風船を入れて入り口を柔らかくする)や,子宮収縮薬を少量ずつ赤ちゃんの状態を見ながら産科医師が調整して使用します。

 

 誘発した当日の出産を目指しますが,個人差もあり,子宮の入り口がまだ熟化していないときは数日かかることもあります。

初産婦の方は経産婦に比べて時間がかかる傾向にあります。

 

 妊婦の安全を第一としていますので,マンパワーのいる日勤帯での分娩を基本としています。夜間休日での無痛分娩は行っておりません。

その場合,無痛分娩ではなく,自然分娩での出産となります。

 

 

無痛分娩の利点

 

 最大の利点は痛みを和らげることができます。

 そのため,自然分娩より落ち着いた出産を行うことができます。

 血圧や脈拍数を落ち着かせることができるため,心大血管疾患合併妊婦や脳血管疾患合併妊婦の方に医学的にメリットがあります。

 

 母体や胎児理由で超緊急での帝王切開が必要となった場合に,無痛分娩のカテーテルで帝王切開の麻酔も行うことができるので,全身麻酔を避けることができる可能性があります。

 

 

 

無痛分娩の開始時期について

 

 基本的に妊婦さん本人が希望した時期に開始します。

 お薬を入れて痛みが取れるまでに数十分かかりますので,陣痛の程度や分娩の進行程度などを考えて,麻酔科医と助産師が開始時期のタイミングのアドバイスをさせていただきます。

 陣痛をある程度味わってみたい,痛みに弱いのでできるだけ早めに開始したいなどご希望をお伝え下さい。

 

 

 

痛み止めのカテーテル(管)を入れる際の注意点

 

 痛み止めのカテーテルは第3.4腰椎の間から穿刺して入れていきます。

 場所としてはちょうど腰の真ん中のところです。

 カテーテルを入れるときには姿勢が重要になります。

 肩や体の軸がねじれてしまうとカテーテルがまっすぐ入っていかないので,背中の軸は垂直に,腰を後ろに突き出すようにしていただいています。

 

 神経のそばにカテーテルを留置するので,ビリッとした感じることもあるかもしれません。

 その際は動かずにビリッとしたと教えて下さい。急に動くと神経損傷や硬膜穿刺のリスクとなります。

 慎重にお声掛けしながら処置は行っていきますのでご安心ください。

 

 

 

痛みのコントロール法

 

 定期的に麻酔科医が分娩の進行具合と麻酔の効果をチェックして薬剤の調節を行います。

 また,助産師が常にそばにいますので,不安なことや気になることなどなにかありましたらお声掛けください。

 

 それとは別に,自分で薬剤を投与できるボタンをお渡ししています。

 痛みが強くなったなと感じたときに使用してください。

 

 

 

 

無痛分娩時の注意点

 

 硬膜外鎮痛は医療行為です。

 すべての医療行為には副作用や合併症が起こる可能性があります。

 

副作用

 

無痛分娩中 … 足の違和感 かゆみ 発熱 血圧低下

無痛分娩後 … 数日間の腰痛

(長期の腰痛は硬膜外鎮痛は原因ではなく,妊娠による靭帯の緩みの影響で起こります。)

 これらは,起こる可能性は比較的ありますが,長く続くものではありません。

 血圧低下に対しては輸液や体位変換,昇圧剤などで対応します。

 足の力が弱くなり転倒の可能性があるので,無痛分娩中はベット上となります。

 

合併症

 

片効きや効果不十分(2-10%)

 カテーテルは外から観察することができないので,麻酔科医が正しく処置をおこなっても効果が不十分となることがあります。

適宜,カテーテルの調整や入れ替えを行います。

 

ひどい頭痛(0.2-1%)

 偶発的に硬膜を穿刺した場合に起こる可能性があります。痛み止めや漢方薬,自己血パッチなどで治療を行います。

 

血腫(17万人に1人)

感染(5-10万人に1人)

 非常に稀ですが,血腫により神経を圧排している場合は緊急手術が必要となります。

 

神経障害(25万人に1人)

 硬膜外鎮痛でおこる神経障害は非常に稀であり,妊娠分娩経過で起こる可能性のほうが高いです。

診察を行いますので,その場合はお知らせください。

 

局所麻酔薬中毒 (非常に稀

 使用する薬剤の血中濃度が異常に上昇すると,唇のしびれや興奮,痙攣,呼吸停止,不整脈などがおこります。

 適宜,観察を行いながら,必要以上の薬剤を入れないように注意を図っています。

 無痛分娩中に唇のしびれや耳鳴りを感じたらすぐにお知らせください。

 

全脊椎麻酔 (非常に稀)

 まれな合併症です。くも膜下腔に薬剤が投与されると起こる可能性があります。

 呼吸停止に対して気道確保など適切な処置を行い対応します。

 

 

 

無痛分娩の効果が十分でなかった理由として考えられること

 

①カテーテルの問題

 麻酔医科医が正しい方法でカテーテルを留置しても,カテーテルの先端は外から見ることができないために効果が出にくい場所に留置される可能性はあります。とくにカテーテルの先が片側に寄った場合は片効きになることがあります。その場合カテーテルの位置を調整したり,カテーテルを入れ替えたりすることで鎮痛していきます。

 

②分娩の進行が急激であった場合

 麻酔のお薬が効くには時間が必要ですが,それ以上に分娩の進行が早い場合十分に鎮痛が行えないことがあります。

 

③会陰部分や背部痛に効果が弱い

 硬膜外鎮痛は子宮収縮の痛みには効果的ですが,赤ちゃんが膣を広げる痛みには不十分になることがあります。薬で調整すると痛みは取れますが,膣や背中の圧迫感を強く感じ,排便するような感覚を感じるかもしれません。この感覚は完全に取ることは難しいかもしれません。

随時,痛みについて麻酔科担当医に伝えてください。薬剤の調製で適宜対応していきます。

 

④産科的理由で痛みが強い場合

 児の回旋異常や常位早期胎盤剥離など産科的な病気の関係で痛みが強くなることがあります。胎児心拍モニターや超音波モニターなどで産科医師が診察し,適切な対応を行います。

 

 

立ち会い分娩について

 

 以前は行っていましたが,新型コロナウイルスの関係で現在は中止しています。状況を鑑みて考慮していきます。

 

 

当院の無痛分娩の特徴

 

 当院で麻酔科が無痛分娩を管理するようになったきっかけとして,他の施設ですが2017年に無痛分娩によって母体と胎児に影響で出た医療事故が全国的に報道されました。このことを踏まえて福岡大学病院麻酔科でも,安全な無痛分娩を行うためにはどうすればよいかしっかりと検討しました。

 福岡大学病院では平成29年厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業)による「無痛分編実態把握及び安全管理体制の構築に関する提言」に基づいた医療体制を構築し安全/安心な無痛分娩を提供することとなりました。

 

 

 2018年より麻酔科が主体となって産科と協力して無痛分娩を行っています。

 当院で無痛分娩を行う医師は,「麻酔科専門医」の資格を持つ経験豊富な麻酔科医師です。

 産科と麻酔科と定期的に話し合いを行い,より安全な無痛分娩を提供できる体制を整えました。

 緊急時のシミュレーションも多職種で行っております。

 また,現在も定期的に産科麻酔学会や周産期麻酔学会などの学術集会で研鑽を行い,常に新しい知識を更新しています。

 

 

 また,産婦人科,麻酔科,新生児科,手術部で協力して安全な医療を提供できる体制をととのえています。各科の医師と看護師・助産師合同で定期的に母体急変時のシミュレーションを行い連携をとっています。

 少子化による分娩数の減少や新型コロナウイルスの影響もあり,当院での全体の分娩数は横ばいもしくは減少傾向(約450件)にありますが,それでも無痛分娩の件数は年々増加しており,2022年は約100件弱の無痛分娩が行われました。

 

 

最後に

 

 福岡大学病院の無痛分娩についてお話しました。

 無痛分娩に不安なこと,お聞きになりたいことがあれば無痛分娩教室でお気軽にお尋ねください。